少し年配の方なら小林多喜二という名前を聞いたことがあるのではないでしょうか。
1933年(昭和8年)に、治安維持法違反の疑いで特高警察につかまり、拷問を受け死亡したプロレタリア作家です。その代表作の一つである「蟹工船」が今売れに売れ、新潮社文庫版が35万部以上出ているそうです(「週刊ポスト」7月4日号のビジネス街で売られているベストセラー「文庫」ランキング第2位)。
実際、僕も大阪・旭屋書店へ行ってみましたが、1階の入口附近に平積みされていました(他の出版社のものや、漫画本も2種類出ています)。以前読んだことがありましたが、もう一度と思い、買って最後のページを見たところ、なんと昭和28年6月28日初版発行で、平成20年6月10日100刷となっていてベストセラーになっていることが実感されました(その後、105刷に)。
物語の舞台は極寒のカムチャッカ沖で蟹を獲り、缶詰にする「蟹工船」。出稼ぎ労働者たちは低賃金で過酷な労働にさらされ、監督の浅川は暴力で、ときには「アメ」をぶらさげて船内を支配する。過労や暴力のために命を落とす仲間の姿を見た労働者たちは、団結し、浅川に立ち向かうことを決心するが・・・。
こうした内容に、今の派遣労働者や「ネットカフェ難民」と呼ばれている青年を中心とした人たちが、自分たちと同じ境遇を描いていると共感しているのだと思います。
「蟹工船」読書エッセーコンテストの審査員をつとめた、精神科医の香山リカさんは次のように言っています。「これまで『自己責任論』の高まりや非正規雇用を正当化する社会の仕組みが『おとなしいフリーター』を作ってきた。 『働いているのに生活できないのはおかしい』、『人間扱いされているとは思えない』と気づき、社会に向け自分たちの状況を発信し、待遇改善を求める若者も増えつつある。この本を読むことで彼らはいつの時代にも不当な働き方を強いられる労働者のいることに痛みを感じつつ時代を超えた連帯を実感しているのではないでしょうか」
新潮社文庫版では132ページほどです。ぜひ一度読んでみて下さい。
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